公共交通の維持は難しい問題だが、民間企業に全責任を押し付けるのは酷である。いずれは自分で車を運転できない人に移住をお願いしなければならなくなる日が来るかもしれない。
投稿日:2016年11月22日
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もくじ
- (少なくとも建前上は)「株式会社」であり「民間企業」であるJR北海道に鉄路維持の全責任を押し付けるのは酷である
- 「公共交通の維持費を誰が払うのか」という問題
- 将来的には、「自力で移動できない人は移住してください」とお願いしなければならなくなる日が来るかもしれない
(少なくとも建前上は)「株式会社」であり「民間企業」であるJR北海道に鉄路維持の全責任を押し付けるのは酷である
国鉄の分割民営化により、国鉄は複数の株式会社等(JR東日本/東海/西日本/九州/北海道/四国/貨物+α)に分けられました。このうち本州三社(東日本/東海/西日本)は比較的早い段階できちんと採算がとれるようになり、上場して完全民営化が達成されました。三島会社(北海道/四国/九州)は相変わらず鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全株式を保有するカタチだけ民間企業でしたが、2016年10月にはJR九州がついに東証一部に上場しました。
…さて、JR北海道はと言うと相変わらず厳しい環境におかれています。本当に「鉄道」が必要なのか JR北海道、存在感増す「バス転換」案 | 乗りものニュースにもあるように多くの路線は利用者が少なく、営業収入が少ない一方で経費の削減も限界に達しています。最近の度重なるトラブルの原因には、「必要な整備費をケチりすぎた(捻出できなかった)」ということもあるでしょう。そしていよいよ万策尽きたJR北海道は、JR北海道の鉄道網、15年後は半減か…維持困難路線を正式発表 | レスポンス(Response.jp)にもあるように維持困難路線を発表しました。
鉄道を廃止しようとすれば、往々にして地域から反発する声が上がります。これまで「あって当然」だったものがなくなり、(特に自動車等を運転できない人は)生活の足がなくなってしまうのですから、無理からぬ事ではあります。しかし、企業努力だけで採算が取れるというものではありません。国等が支援しているとはいえ、JR北海道も「株式会社」です。一民間企業に公共交通維持の全責任を押し付けるというのは、あまりにも酷であると考えます。トラブルを起こしていることを差し引いても、JR北海道はここまでよく健闘してきたと思います。
「公共交通の維持費を誰が払うのか」という問題
さて、JR北海道は維持困難路線について、バス転換や上下分離方式(鉄道の運行主体と線路等の設備の所有者を分離する)、運賃の値上げ等を視野に入れて自治体と交渉する腹づもりのようです。いずれにせよ、「路線を維持したければ自治体もそれなりのカネを出してくれ」というわけです。公共交通を維持することによる受益者は地域住民ですから、地域住民から集めた金(=税金)による支援にも、一定の合理性はあるでしょう。
しかしながら、税金を投入するとなれば、新たな問題が出てきます。例えば、
- 税金を投入する区間でJR北海道が利益を上げることが許されるか?
- 利用者が全然いない駅も税金で維持するべきなのか?
- 利用者が1人2人しかいないところまで税金を投じて維持する必要があるのか?
将来的には、「自力で移動できない人は移住してください」とお願いしなければならなくなる日が来るかもしれない
公共交通の維持にも限界があります。ここまで採算が取れないとなれば、JR北海道をもう一度公営にしてしまうか、さもなくば不採算区間を容赦なく廃止するか、あるいは税金をドバドバ投入して維持するか、ということになります。「1人でも利用者がいるなら公共交通を維持しなければならない」という考え方に基づけば、自動的に「税金をドバドバ投入して鉄道orバスを維持」が選択されるでしょう。
しかし、JR北海道の収入のみならず、自治体が集められる税金にも限りがあります。いつまでも公共交通を「聖域」に出来るわけではありません。将来自治体にも金がなくなってしまえば、「自力で移動手段(車など)を確保できない人は、自治体が指定する公共交通がある地域に移住してください」とお願いしなければならなくなる日が来てしまうのかもしれません。流石にこれは居住移転の自由が絡んできて難しい問題ですが、公共交通のあり方は、人の住まいのあり方とセットで考えるべきものなのかもしれません。
参考リンク