最低賃金は生活賃金であらねばならない。最低賃金で週40時間労働したら貰える賃金できちんとした生活が成り立たなければ、最低基準の意味が無い。

さて、2016年7月26日、厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は最低賃金を全国平均で時給24円引き上げ、822円とする目安を示しました。最低賃金が現在の決め方になった2002年度以降では最大の上げ幅です。最低賃金が上がることについては、ある程度評価できます。しかし、時給822円は生活賃金とは言い難い低さです。最低賃金は生活賃金であらねばならないのです。

最低賃金で週40時間労働した時に貰える賃金できちんとした生活が成り立たなければ、最低賃金は生活賃金たる条件を満たさない。

  • 時給822円で週40時間×4週間(1ヶ月)働いた時の月額賃金は13万1520円。実際にはここから税金や社会保険料が差し引かれるから手取りはもっと少なくなる。これで生活しろというのはなかなか厳しい物があるだろう。いくらなんでも時給822円を生活賃金と言い張るには無理がある。
  • 労働基準法には、「労働条件は労働者が人間らしい生活を営めるものでなければならない」という趣旨の条文がある。また、労働基準法には「最低賃金は最低賃金法によって定める」と書かれているが、賃金は労働条件の一部なのだから、最低賃金も労働者が人間らしい生活を営める額である必要があるはずだ。
  • 最低賃金で働いた時に貰える賃金で人間らしい生活を営むことが出来なければ、最低賃金が労働基準法に違反しているとも考えられてしまう。最低賃金は、労働者が人間らしい生活を営むことが出来る「生活賃金」であらねばならない。

最低賃金の引き上げ幅が大きくなったことは評価すべきだが、それでもまだ最低賃金は生活賃金に程遠い額である。

最低賃金、過去最大24円上げ 中小支援へ助成金拡充  :日本経済新聞 こちらの記事によると、厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は最低賃金は全国平均で24円引き上げ、822円にする目安を示したようです。引き上げ幅には地域差もありますが、引き上げ幅が最も小さいD地域(高知県や沖縄県など)でも21円引き上げられ、目安通りに引き上げられれば最低賃金が700円未満の都道府県がなくなります。これは素晴らしいことだと思います。(地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省も参照)

しかし、最低賃金が引き上げられても、まだ生活賃金には程遠いと考えます。全国平均の時給822円で週40時間×4週間(1ヶ月)働いても、月額賃金は13万1520円にとどまります。実際にはここから税金や社会保険料などが差し引かれるので、手取りはもっと少なくなります。

手取り額を計算してみましょう。計算ツールはイージー給料計算を使用し、居住地は2015年度最低賃金が全国平均に最も近かった兵庫県とします。労働者の年齢は40歳未満、扶養家族は0人です。月給13万1520円だと、社会保険で2万円弱が差し引かれ、所得税も差し引かれるので、11万0962円が残ります。実際にはここから住民税が持っていかれるので、手取りは更に少なくなるでしょう。

さて、月10万円そこらで人間らしい生活をしろと言っても、なかなか難しい物がありそうです。まずは食費の問題があります。後述する家賃負担やその他の経費のことを考えれば、食費とて聖域なき削減の対象にならざるを得ません。厚生労働省はかつて「所得が低い人は栄養バランスのよい食事をとる余裕がなくなっているのではないか。食事の内容を見直すなど健康への関心を高めてほしい」という無茶苦茶なコメントを発し、ネット上では反発が相次ぎました。それなりのお金がなければ、きちんとした食事を摂ることもままなりません。(厚労省の調査に低所得者ウンザリ カネがないから「栄養取れない」「肥満になる」「煙草しか息抜きない」 | キャリコネニュースなども参照)

また、一人暮らしをしようとすれば家賃負担が重くのしかかります。低所得者向けの公的な家賃補助が貧弱な日本では、極論すれば重い家賃負担に耐えるか、実家暮らしで家賃負担から逃れるかの二択です。しかし、親とて人間ですから、いずれは死にます。また、家はきちんとメンテナンスをしなければ壊れます。十分な収入がなければ、実家暮らしでも将来的には住居を喪失するリスクに直面します。また、実家が「檻なき牢獄」と化してしまっていることも指摘されています。人間らしい生活を営むためには、住居費も賃金に含まれなければなりません。

そして、食費と住居費以外の必要経費が残り少なくなった手持ちを更に削りにかかります。光熱費、通信費、被服費etc…の攻撃で手持ちは底を突きそうです。今回の大幅引き上げをもってしても、最低賃金はまだまだ生活賃金には遠く及びません。

最低賃金は、労働者が人間らしい生活を営むことが出来る「生活賃金」であらねばならない。

労働基準法には、以下の様な条文があります。

第一条  労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
○2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

(中略)

第二十八条  賃金の最低基準に関しては、最低賃金法 (昭和三十四年法律第百三十七号)の定めるところによる。

(中略)

第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法

労働基準法第一条で「労働条件は労働者が人間らしい生活を営めるものでなければならない」と、ハッキリ宣言しています。賃金も労働条件の一部なわけですから、人間らしい生活を営むことが出来る最低ラインの賃金が、最低賃金として定められなければならないはずです。最低賃金で週40時間労働した時に貰える賃金できちんと人間らしい生活を営むことが出来なければ、最低賃金は労働者が人間らしい生活を営むことが出来る「生活賃金」とは言えません。

労働基準法は労働条件の最低基準を定め、労働者を守る最後の砦となります。最低賃金もまた、賃金の最低基準を定めて労働者を守る最後の砦となるものです。しかし、最低基準の賃金で人間らしい生活を営めないようではどうしようもありません。最低賃金が生活賃金になってはじめて、労働者を守る最後の砦となりうるのです。中小企業などに対する支援策は必要かもしれませんが、最低賃金は早急に生活賃金に引き上げるべきです。

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