これまでの低すぎる最低賃金は、「最低賃金で働く人が一家の大黒柱となるわけではない」という前提のもとに成り立ってきたのかもしれない。

2016年現在、日本の最低賃金で労働基準法の規定(最大で週40時間労働)通りに働いても、一人でまともな暮らしをするのはなかなか難しい状態です(こちらの記事も参照)。最低賃金が一番高い東京都でさえ、未だに時給1000円には届いていません(地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省より)。最低賃金がこれほどまでに低く抑えられてきた背景には、「最低賃金で働く人(非正規労働者)が一家の大黒柱となるわけではない」という考えがあるのかもしれません。

「各世帯には最低賃金で働く非正規労働者とは別に多くの収入をもたらす大黒柱が必ずいる」という前提のもとで最低賃金が低く抑えられてきたのかもしれないが、この前提は危うくなっている。早急に最低賃金を生活賃金水準に引き上げなければならない。

  • 生活賃金になり得ない最低賃金がこれまで続いてきた背景には、「各世帯には最低賃金で働く非正規労働者とは別に多くの収入をもたらす大黒柱が必ずいる」という大前提があったのかもしれない。最低賃金での労働が「それによる収入がなくても特に差し支えない『家計の足し』」であれば、最低賃金が低くても良かったのかもしれない。
  • だがこの考えは、「各世帯には必ず最低賃金よりも格段に高い(世帯員の全員をきちんと養える)賃金を受け取れる大黒柱がいる」という大前提があってはじめて成り立つ。2014年地点では非正規労働者の割合が4割を超え、大黒柱がいない状態の世帯も増えているのではないかと推測される。最低賃金で働いている人がガチで家計を支えるという「想定外」が現実と化す。
  • 最低賃金で週40時間働いた時に一人で文化的な生活を営めないままでは、最低賃金は生活賃金たる条件を満たしていない。家族の形も多様化してきているし、家庭崩壊が起きても家族の各々が経済的に自立して生きていけるセーフティーネットだって必要だ。セーフティーネットについては生活保護という形で実装するのも手ではあるが、最低賃金を生活賃金レベルに引き上げれば、ワーキングプア問題などの低賃金によって発生する問題と同時に解決できるのではなかろうか。

家庭から大黒柱がいなくなる日…最低賃金で働く人が家計を支えるという「想定外」の事態にどう立ち向かう?

時給1000円にも満たない最低賃金が生活賃金足り得ないことは、すでにこちらの記事で主張しているとおりです。最低賃金で週40時間(労働基準法で定められている労働時間の上限)働いても一人で文化的な生活を営むことが困難であるというのはひどいです。

しかしそれでも、いわゆる「標準世帯」であれば、世帯には「多くの収入をもたらす大黒柱」がいました。各世帯には「多くの収入をもたらす大黒柱」が必ず存在するという前提であれば、最低賃金で働くのは主婦や学生などであり、「最低賃金で働く人が家計を支えるわけではない」という考えを持つ人がいても、何ら不思議はありません。最低賃金での労働は、「それによる収入がなくても特に差し支えない『家計の足し』」というわけです。

ただ、「各世帯には最低賃金で働く非正規労働者とは別に多くの収入をもたらす大黒柱が必ずいる」という大前提はかなり危うくなっているのではないでしょうか。就職氷河期には学校を卒業しても正社員として就職できなかった人(=「大黒柱」になれない人)が溢れ、非正規雇用の職で食いつなぐことを余儀なくされる人が増加しました。彼らの親が正社員として働いている間ならまだ何とかなるのかもしれませんが、親とて人間ですから、いずれは退職し、そして死にます。親の収入という支えを失えば、最低賃金の非正規雇用で働いて生活するか、なんとか頑張って正社員の地位を勝ち取るか、様々な制約を受け入れて生活保護を受けるか、ということになります。

安定しているとされる正社員の地位を勝ち取ることの難易度が跳ね上がり、非正規雇用の割合もとうとう4割を超えました(非正規雇用、ついに4割に | nippon.comより)。また、運よく正社員の地位を勝ち取れたとしても、会社の業績悪化などを理由に整理解雇される可能性もあります。会社都合で解雇された後、失業給付がある間に次の安定した仕事を見つけられる保障もありません。生活保護を受ける難易度も決して低くないのは周知の通りなので、ある日突然仕事を失い、やむを得ず非正規雇用の仕事で食いつなぐ事態になる可能性だってあります。

いずれにせよ、現在のシステムでは最低賃金で働く人が家計を支えることは、おそらく想定されていません。最低賃金で働く人が家計を支えることが想定されていれば、少なくとも最低賃金が時給1000円未満の地域は存在しないでしょう。最低賃金で働いている人がガチで家計を支えるという「想定外」の事態が、今まさに発生しています。

一人で文化的な生活を営めるレベルの最低賃金(生活賃金)は、生活保護が機能不全に陥っている時に「最後の砦」となりうる。賃金の低さに起因する問題は、最低賃金の大幅引き上げによって解決される。

最低賃金は、週40時間働いた時に一人で文化的な生活を営むことが出来るレベルの賃金(生活賃金)であるべきです。生活保護がきちんと機能しているのか少々怪しくなっている今、最後の砦となるのは生活賃金レベルの最低賃金と、意志があれば誰もが容易に(労働基準法を遵守している職場に)就職できる環境です。

現在は家族の形が多様化し、いわゆる「標準世帯」(夫婦+子ども)以外の形の家族も増えてきています。また、家を借りることがリスクの時代:檻のない「牢獄」と化した実家(藤田孝典) – 個人 – Yahoo!ニュースの記事にもあるように、賃金の低さが若者から住居選択の自由を奪っているという側面もありますし、あまり考えたくはありませんが家庭崩壊が起きても家族の各々が経済的に自立して生きていけるセーフティーネットも必要だと考えます。

住居選択の問題については家賃補助制度を実装して解決するという手もありますし、生活保護を受ければ最低限の生活は保障されます。しかし、現時点では、生活保護が正常に機能しているかどうかは怪しいです。水際作戦で保護が必要な人まで打ち払っているようではどうしようもありません。就労することで生活に必要な金銭を得ることを考えれば、最低賃金の大幅引き上げによってセーフティーネットを構築するという選択肢は十分にありえると考えます(意志があればきちんと就職できるような支援制度は別途用意する必要がありますが)。

また、最低賃金の引き上げは、ワーキングプアなど、賃金が低いことによって発生する問題の解決にもつながります。最低賃金の引き上げは、生活レベルを底上げし、貧困層を減らす力があるはずです。これまで最低賃金は低く抑えられてきましたが、そろそろ大幅引き上げを行い、最低賃金で労働した時に貰える給料で自立した文化的な生活を営めるようにした方がいいのではないでしょうか。

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