「高校の成績が5段階評定で『4』以上なら月3万円」という給付型奨学金の自民党案の問題点を少しばかり指摘する

高校成績「4」以上→月3万円 給付型奨学金の自民案:朝日新聞デジタルによると、自民党案では給付型奨学金について「高校の成績が5段階評定で『4』以上」という条件を課すようです。しかしこれには問題があるので、少しばかり指摘していきます。

問題点を列挙

  • 高卒認定試験→大学合格の人(高校に通ってない人)はどうする?
  • 高校のレベルの違いへの対応は(同じ「4」を取る難易度が高校によって違うという問題)…
  • 給付型奨学金新設の代償として特定扶養控除が縮小される。奨学金の対象外になると逆に負担が増すのでは?

高卒認定試験合格→大学入学の人(高校に通ってない人)はどうする?

確かに大学進学を目指すにあたって、一般的なのは全日制高校に通って勉強し、「高校卒業見込み」で大学を受験するコースです(現役生)。浪人した場合は「高校卒業」という状態での受験になります。しかし、高校を卒業するだけが大学受験資格を得る道ではありません。本ブログでも取り上げていますが、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験)を受験し、合格すれば高校に通わずとも大学や専門学校、公務員試験などを受験することが出来ます。

高卒認定試験を受験するために必要な資格は特にありませんし、高校に在学する必要もありません(むしろ高校に通っていない人のために高卒認定試験がある)。自民党案は「高校の成績が5段階評定で『4』以上」という条件を課していますが、そもそも高校に通っていないのでは評定などつけようがありません。経済的事情やいじめ等の影響で高校に通えなかった人は奨学金の支給申請も門前払いということでしょうか。

高校のレベルの違いへの対応は(同じ「4」を取る難易度が高校によって違うという問題)…

奨学金の支給対象者を高校在学者に絞って考えても、今度は「同じ評定値『4』を取る難易度が高校によって違う」という問題にぶち当たります。5段階評定をつけるにあたって、何か全国的に統一された基準が存在するわけではありません。評価基準は高校によってバラバラです。定期試験は生徒の学力を評価する重要な要素ですが、こちらも全国統一問題があるわけではありません。もちろん難易度の同一化もなされていません。

評価基準が高校によってバラバラですから、同じ学力の人でも高校によって「5」になったり「3」になったりします。全く同じ学力の人でも、(極端な例ですが)スーパー進学校(偏差値70以上)と学力底辺校(偏差値40未満)では評価が変わってくるでしょう。スーパー進学校では評定値が「3」や「2」の人でも、学力底辺校では「5」を貰える可能性が出てきます。まさに「進学校の底辺」≒「底辺校の頂点」というわけです。これでは同じ学力の人でも高校によって奨学金をもらえたりもらえなかったりすることになります。これはひどい

また、評定値を決めるのは当然ながら高校の先生です。奨学金を盾にして高校が生徒に圧力をかけたり、逆に生徒(の親)が高校に賄賂を渡す可能性も否定できません(賄賂を渡せるくらい金があるなら奨学金無しでもなんとかなりそうなものですが…)。奨学金の支給対象者を決定するプロセスに学校を介入させることには、様々な問題があるのです。

給付型奨学金新設の代償として特定扶養控除が廃止される。奨学金の対象外になると逆に負担が増すのでは?

19~22歳扶養控除、縮小検討 給付型奨学金の財源に:朝日新聞デジタルにもあるように、給付型奨学金の財源として、「特定扶養控除の縮小」が挙げられています。特定扶養控除は別名「すねかじり控除」とも呼ばれ、その年の12月31日地点での年齢が19歳以上23歳未満(≒大学生)の子どもを養う親に適用される控除であり、一般の扶養控除よりも控除額が大きくなっています(一般:38万円 特定:63万円)。「大学生の子供がいると経済的に大変だからその分税金を軽減しましょう」という理屈です。

特定扶養控除が縮小されれば、その分親の税負担が増し、可処分所得は減少します。奨学金を貰えれば税負担の増加(≒一人暮らしの学生に対する仕送りの減少)を奨学金で相殺できますが、もらえなければ親の税負担増だけが発生し、一人暮らしの学生の場合は仕送りを減らされ、アルバイト等を増やさざるを得なくなる可能性が大です。給付型奨学金と言えば聞こえは良いですが、自民党案は痛し痒しの代物です。

対案:奨学金の支給対象は「成績がいい人」または「経済的に困窮している人」に。財源は高所得者に対する増税や(資産がたくさんある)高齢者に対する福祉の切り詰めなどで捻出。教育は「未来への投資」という視点を。

問題だらけの自民党案に代わり、僭越ながら私の対案を提示します。

  • 奨学金の支給対象者は「成績がいい人(成績枠)」または「経済的に困窮している人(所得枠)」。出願は希望者が各自で行う。
  • 成績枠の審査は全国統一のテストで。所得枠は本人や家族の所得や資産などの情報をもとに審査。
  • 財源は高所得者に対する増税や、(資産がたくさんある)高齢者に対する福祉の切り詰めなどで捻出する。教育が「未来への投資」である点を説明してなんとかする。

まず、奨学金支給審査への出願は希望者が各自で行い、高校が関与しないようにします。高校に通っている人にも通っていない人にも等しく出願するチャンスを与え、学校が用意する余分な書類を減らすことで高校の先生の負担を軽減します。出願資格は「高校卒業(見込み)」「高卒認定試験合格」あたりでしょうか。後述する成績枠の場合はどの道ペーパーテストを課すので出願資格を不問にしても良いかもしれません。これなら学校が用意する書類がさらに減ります。

奨学金支給審査は2つの出願枠(「成績枠」と「所得枠」)を用意します。「成績枠」はその名の通り成績優秀者に奨学金を支給するものですから、希望者数が定員より多い場合(と高校卒業(見込み)or高卒認定試験合格を証明する書類がない人)については全国統一テストを行い、対象者を絞り込みます。「所得枠」は本人の成績よりも本人や家族の経済状況(所得・資産)を基に審査を行い、対象者を決定します。

必要な財源は、高所得者やたくさん稼いでいる大企業に対する増税、(資産がたくさんある)高齢者に対する福祉の切り詰めなどを行って捻出します。もちろん国民に痛みを強いることになりますが、「教育は未来への投資である」「投資をしなければ社会を支える人がいなくなる」などの点を説明し、できるだけ理解を得るより他にありません。

金額については、通信制大学(4年間)または国立大学(4年間)に通うために必要な金額を考慮して決めることになるでしょう。例えば慶應義塾大学 通信教育課程の場合は4年間の普通課程で学費総合計が60万円程度です。自民党案では「月3万円」でしたが、3万円×4年(48ヶ月)=144万円になるので、金額そのものは(通信制大学に通うなら)まあまあ妥当なのかもしれません。

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