日本では、ベーシック・インカムの前段階として「負の所得税」システムを実装する必要があるのではないか
投稿日:2017年05月01日
最終更新日:
もくじ
- 「負の所得税」とは何か
- かつては終身雇用がセーフティネットだったが、それに頼れる時代ではなくなった
- 企業に依存せずとも最低限の暮らしができるようにするために、「負の所得税」システムが必要だ
「負の所得税」とは何か
まずは「負の所得税」とは何かについて、軽く解説します。
通常、何らかの形で得た所得に対して「(正の)所得税」が課されます。例えば会社員は給料に対して所得税が課されます。この時、納税者は所得の一部を国に納めているわけです。これに対して、「負の所得税」は所得が基準額よりも少ない人にマイナスの所得税を課す…すなわち給付金を渡すというものです。
生活保護制度とベーシックインカムと負の所得税の違い: ニュースの社会科学的な裏側でも解説されていますが、「負の所得税」を導入すれば所得が基準値以下の人には所得に応じた給付金が渡されますから、「頑張って稼げば稼ぐほど可処分所得が増える」というシステムを破壊せずに国民に最低限の文化的生活を保障することが出来る他、現在の生活保護のように「本当は支援が必要なのに支援が行われない」というようなこともなくなります。また、「負の所得税」はベーシック・インカムのように国民全員に金銭を給付するわけではありませんから、ベーシック・インカムよりは少ない財源で実装できます。
かつては終身雇用がセーフティネットだったが、それに頼れる時代ではなくなった
さて、かつての日本ではいわゆる「終身雇用」が当たり前であり、一度正社員として採用されたら定年を迎えるまでずっと同じ会社に勤め、従業員が企業に忠誠を誓う代わりに企業も従業員(とその家族)の生活の面倒を見るようになっていました。一家の大黒柱(多くの場合は父親)が正社員として働き、そこに扶養家族(妻子等)がぶら下がる構造になっていたので、労働者の生活保障は企業の役割だったわけです。
「正社員の夫+妻子」のセットが当然だった時代において、アルバイトなどの非正規雇用はあくまでも「サブの稼ぎ」の域を出ず、メインの働き手(正社員)は家庭内に必ず存在したので、最低賃金が低くても非正規雇用者が生活に困窮することは無く、正社員に対して家族を養えるだけの給料が出ている限り、最低賃金の低さはさほど大きな問題にはならなかったはずです。
しかし時代は変わり、「正社員の夫+妻子」のセットは当然ではなくなってしまいました。地獄のような就活を乗り越えても企業が従業員の生活の面倒を定年まで見られるという保障もなくなり、そもそも正規雇用の職にありつくことができない人も出てきています。非正規雇用の仕事で家族を支えることになる可能性が発生した以上、低く抑えられていた非正規雇用の給料を上げろという声が出てくるのも当然と言えます。
企業に依存せずとも最低限の暮らしができるようにするために、「負の所得税」システムが必要だ
ここで「時給1500円」を最低賃金に設定することの妥当性について考察しましょう。いきなり「時給1500円」と言われると「(最低賃金にしては)高すぎるのではないか」と思われるかもしれませんが、まずは落ち着いて時給1500円を月収・年収に換算しましょう。労基法で労働時間は週40時間が上限となっていますから、1ヶ月=週5日労働×4週間(20日労働)で計算すると、結果は以下のようになります。
- 月収…1500円×8時間×20日=24万円
- 年収…24万円×12ヶ月=288万円
まあ、ネットでは浸透してきましたが「時給1500円って年収にすると300万円にもならないんやで。どこが高いんや」と言うのは効果大きいですよね。特に、こういう運動に拒否感示しがちな中年以降にとって、年収300万はありえないほど安い額なので、彼らを脱力させる効果がある。
— しゃいん (@shine_sann) 2017年4月15日
但し、最低賃金を引き上げるだけで全ての問題を解決できるというわけではありません。賃金をもらうためにはどこかの会社に雇われなければなりませんから、失業してしまっては最低賃金がいくら上がろうともその恩恵を受けられません。また、セーフティネットを雇用のみに依存している状態では、ブラック企業にしがみつかなければ生活できない人が発生する恐れもあります。生活保障を企業のみに依存することは、ある意味でとても危険です。
そこで必要になってくるのが、「ベーシック・インカム」あるいは「負の所得税」です。「ベーシック・インカム」なら国民全員に最低限の生活に必要な金銭を支給するので、セーフティネットとしてはほぼベストです。「負の所得税」でも所得が一定額以下の国民全員に金銭を支給して生活を保障することが出来るので、必要な財源を考えれば現在の日本で導入するなら「負の所得税」がベターでしょう。
先述しましたが、「負の所得税」であれば「頑張って稼げば稼ぐほど可処分所得が増える」というシステムを破壊せずに国民に最低限の文化的生活を保障することができます。また、「負の所得税」による生活保障があれば、後先のことを考えずにブラック企業からの撤退あるいは逆襲がやりやすくなるので、ブラック企業の淘汰にもつながるでしょう。よって、私は日本でも「負の所得税」システムを実装するべきであると考えます。
参考リンク