「会社が家を提供する」というのは、福利厚生に見えるが実際には労働者に対するものすごい拘束である。会社を辞めた(クビになった)瞬間に家を失うリスクが有るのだから。

会社の中には、社宅や社員寮などの形で、労働者に住居を現物支給している場合があります(家賃が給料から天引きされる場合もあり)。ただ、こうした社宅制度は福利厚生に見えますが、実際には労働者に対する拘束でもあるのです。

労働者が自分でアパート等の大家さんと直接契約し、家賃を会社が補助するならば、これは福利厚生といえる。だが、会社が住居を現物支給するのは、労働者に対する拘束である。社宅制度は表向きは福利厚生に見えるが、それなりに警戒が必要かもしれない。

  • 労働者が自分で大家さんと直接賃貸契約を締結した住居について、家賃について会社が補助金を出すならば、これは立派な福利厚生である。だが、社宅などの形で会社が住居を現物支給するのはいただけない(家賃を天引きしていても同じ)。会社を辞めた(クビになった)瞬間、家を追い出されてしまうおそれがあるから。
  • 社宅制度は、ある意味で住居を人質にとって(給料が安い)労働者を会社に縛り付けるシステムである。労働者は住居を維持するために、不利な条件を飲まされるおそれがある。表面だけ見ると福利厚生に見える社宅制度だが、労働基準法違反が横行している現在では、それなりに警戒しなければならない制度かもしれない。

会社の労働者に対する家賃補助は立派な福利厚生。社宅制度は福利厚生に見えるが、会社をクビになった時に仕事と家を同時に失うリスクも有る。

会社が住居面での福利厚生を充実させようと思い立った時、取りうる選択肢は二つです。一つは「家賃補助」、もう一つは「社宅制度」です。このうち、「家賃補助」は、立派な福利厚生です。労働者の家賃支払を援助し、きちんとした住居の確保を支援しているわけですから(家賃補助のために本来の給料が削られていたら元も子もないのですが)。

また、あくまでも賃貸契約の主体は労働者本人と会社との関係が薄い大家さんなので、仮に労働者が会社を辞めても(クビになっても)、失業保険や貯金等を活用して家賃の支払いを継続することができれば、家を追い出されることはありません。失業保険や貯金が無くなる前に再就職できれば問題ありませんし、無くなった時は生活保護申請という最終奥義もあります(実際には生活保護申請は厄介なシロモノですが…)。

問題は「社宅制度」です。社員の住居を保障するという点では福利厚生ですが、こちらは労働者が会社で働き続けることを条件に会社が住居を現物支給するものです(家賃を天引きしていても構図は大して変わりません)。つまり、労働者が会社を辞めたら(クビになったら)、家を追い出される可能性が存在するのです。

かつてリーマン・ショックがあった時、「派遣切り」が社会問題になりました。この時は本人の意思に関係なく派遣契約を打ち切られ、同時に社員寮を立ち退くことを要求された派遣社員がいました(家賃を天引きしていた場合は、寮からの追放は借地借家法絡みの問題があるらしいのですが…)。仕事と家をいっぺんに失うわけですから、生活基盤へのダメージは相当なものです。社宅制度には、住居という生活する上で重要な要素を会社に委ねる(=会社の意向で住居を脅かされるおそれがある)というリスクが有るのです。

社宅制度は、福利厚生の名を借りた労働者を奴隷化する支配装置とも考えられる。労働基準法違反が横行している現在では、社宅制度は要警戒な制度かもしれない。

派遣切りの時は、本人の意向に関係なく仕事と家を同時に失うことになった罪なき労働者が溢れかえったわけですから、社会問題となるのはある意味当然とも言えます。しかし、派遣切りがなくても、社宅制度には労働者にとってのリスクが潜んでいるのです。

会社による住居の提供(及び給料の支給)と、労働者による労務の提供がセットになっていますから、(特に市場価格での家賃の支払が難しい(給料が安い)労働者の場合は)住居を確保するために、どんなことがあっても会社にしがみつくことを余儀なくされます。これにより、会社が労働者に無茶苦茶な条件を押し付ける余地が生まれてしまうのです。

もはや周知のことですが、現在は労働基準法違反(残業代未払いなど)が横行しています。社宅制度+安い給料で労働者が会社にしがみつかざるをえない環境を構築すれば、会社は労働者に対して無茶苦茶な条件を飲ませる余地が生じます。表向きは福利厚生とされている社宅制度の内実は、労働者を奴隷化する支配装置とも考えられるのです。世知辛い世の中ですが、社宅制度(会社による住居の現物支給)に対しても、それなりに警戒心を持たなければならなくなったのかもしれません。

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